メーカー技術者に総合ランキング2位の”魔法科高校の劣等生”をオススメする理由
さてSFジュナイブル小説 “魔法科高校の劣等生” 27巻(急転編)のレビューは実施済みだけれども、改めてMikanお嬢様から拝借して目を通すと、実に「メーカーの技術者向けだよなあ」と感心する。
本日は、そもそも “魔法科高校の劣等生” とは、どんな小説であるかを “メーカー技術者向けに” 紹介してみたいと思う。
まずこの小説は魔法の存在する世界である。主人公は世界を破滅させるような特別な魔法は使えるけれども、一般的な魔法は苦手である。この魔法は体系立てて構成されている。実に尤もらしく描かれている。
「キャスト・ジャミングは、魔法式が、事象に付随する情報体・エイドスに働きかけるのを妨害する魔法の一種だ。広い定義でいえば無系統魔法と同じ性質を有している。
同じように相手の魔法を無効化する『領域干渉』という魔法がある。この術式は、自分を中心とした一定のエリアに対して、何の情報改変も伴わない、干渉力のみが定義された魔法式を作用させることにより、他者の魔法式の干渉をシャットアウトする技法だ。これに対して、キャスト・ジャミングは無意味なサイオン波を大量に散布することで、魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する技術である。」
これ、いったいどれだけの読者が真面目に読んだだろうか。少なくともMikanお嬢様は、完全に斜め読みだった。(だから星五つのランキングNo.1小説なのに、一時間かからずに読み終わってしまうらしい。彼女の興味の対象は、戦う場面に限定されている。)
ちなみに次のセリフは、実際に統計を取ってみると、実に納得できるセリフである。
「絶対数の少ない魔法師の中に、相対的に高い割合で高所得者がいるから、平均収入が高く算出されるだけなんだ。」
さりげなく統計学の “中央値” のことを言ってますな。
そして一方で、”読者サービス” も忘れていない。この配慮、さすがだ。ブックオフのラノベ2017年ランキングで総合2位であるものの、女性向け部門では全くランクインされていないのも頷ける。
そしてベテランだけあって、世の中というものを良くご存知だ。次の説明など、「そうだよなあ」と感心してしまう。
“達也は自分を嘆いているのでも自分以外の誰かを憐れんでいるのでもなく、自分も含めた『人の弱さ』について語っているのだった。”
そして私がベゾブラゾフ博士の次にお気に入りの吉祥寺真紅郎君である。27巻の急転編で、改めて彼は旧魔法技能師開発第一研究所の敷地内になる研究員用の独身寮に住んでいることが描かれている。彼は学生にして研究所員でもあるので、この独身寮に住んでいる。そして定期試験の最中も、自分の持つ時間を研究所の “仕事” に当てていたとのことだ。
“仕事” である。
研究というと好きなことを好きなようにやれると若者は想像するかもしれないが、現実にそんなことは滅多にない。彼も自分の研究テーマに取り組むのはもちろんだけれども、幹部研究員から新たな仮説の研究を依頼されることも少なくないとのことである。
この部分、思わず頷いてしまう。”幹部研究員” というエラいおじさんたちから、次から次へと「あれやって」「これやって」と依頼がやって来るのだ。研究員は雑用で忙しいのである。ちなみに幹部研究員は自分で研究することは殆どなく、部下たちの研究を統括して、研究所(企業)としての成果を少しでも上げるために真紅郎君に依頼するのである。(ちなみに依頼をやったからといって、自分の研究が遅れることは許されない。研究予算を割り当てられたら、その成果を出す必要がある。実に理不尽な….. 失礼した。個人的な話に逸れてしまった。)
そして真面目な真紅郎君は仕事と私的な時間の区別が曖昧になっている傾向があるとのことだ。これも研究所に所属する研究者には、よくあることだ。
最後に最も笑ってしまうのが、司波達也から渡された新魔法を実用化する取り組みである。睡眠時間3時間30分で頑張り、カフェイン錠剤をのみ込み、洗顔もそこそこに行動を開始する。組織に所属する研究者には、良くあることである。私もこの一か月、いったいどれだけ3時間睡眠で過ごした日があっただろうか。
そうそう、そういえば “魔法科高校の劣等生” は、英語版の発行が進んでいる。現在は10巻程度だけれども、続々と新刊発行が予定されている。我が家のリケジョ小学生であるMikanお嬢様は、現在は2巻の決め台詞を覚えようと頑張っている。(それにしても27巻の裏表紙(左端)が面白い。作者としても彼には思い入れがあるのだろうか)
大体以上だ。
最近では大学生が会社に、インターンとして実習にやって来ることも多くなった。しかし彼らは、吉祥寺真紅郎君のような現実を知ることなく、そこそこ明るい一面だけを見てお帰りになる。実は “魔法科高校の劣等生” を熟読した方が、よっぽど企業のことを勉強することが出来る。
それにしても著者の佐藤勤も、会社では相当苦労したような気がする。会社員生活、おつかれさまでした。(と、勝手に言っておくことにする)